私が平伏するあの独裁者は、時のブラッディーメアリーで、迫害されている人民は私なんだ。
勇気を振り絞り、その迫害に立ち向かった者たちはどうなった。
失意のうちにこの世を去っていったじゃないか。
そして、平和だと言われているこの国でも、似たようなことは起きている。
現代でも可能な、正当な権利とされる方法に形を変えてね。
勇気を振り絞り、その迫害に立ち向かった者たちはどうなった。
失意のうちにこの世を去っていったじゃないか。
そして、平和だと言われているこの国でも、似たようなことは起きている。
現代でも可能な、正当な権利とされる方法に形を変えてね。
「今日は随分と暗い顔ね。そんなんじゃ、ケイのお酒が暗い味になっちゃうじゃない」
彼女はいつもそうなんだ。
いつも笑っているんだよ。
その笑顔に、あの時の私は苛立ちを覚えながら目を反らし、大きくため息をつきながら口を開いたんだ。
「暗い顔にもなるさ。理不尽なことばかりが続く毎日だからね」
「理不尽なこと? ああ。前にあなたが話していた、あなたの会社の経営者さんのことでも思い返していたの?」
エマの顔に視線を向けると、彼女は笑顔のままだった。
私はまた視線をずらし、カクテルを飲みながら話を続けていった。
「ああ、そうさ。今いる会社の経営状態が悪すぎてね。半年後には会社の金が足りなくなる。そういうことを管理していくのが私の仕事。だから私は、その事実をあの独裁経営者に報告したんだ。そうしたら、あいつ何て言ったと思う? 『そんなことを報告してきて何になる! 嫌がらせのつもりか?! 俺の給料を下げろってことか?! 冗談じゃない! 金が足りないんだったら、お前が自分の給料を下げてくれと俺に頼むべきだろう!』と、きたもんだ。おかしいだろう? あの会社は私の会社じゃない。しかも、私はまだ入社して1ヵ月なんだ。なのに『お前は能無しだ』とか、『会社のことを考えて行動出来ない間抜けだ』とか、それはもう散々な言われようさ」
「あはは! あなた、能無しだったのね!」
腹立たしい笑いを消すように、私はトゲのついた自分の言葉を、彼女の笑いに被せたんだ。
「前任者も1ヵ月で辞職をしている。その前も、その前の人だってそうだ。あの会社に居た人達は、独裁者の凝り固まった考えからくる暴言と、奴の狂った頭についていけずに辞めていく。そして、独裁者は後から入ってきた者に語り始めるんだよ。前任者がどれだけ無能で、どれだけ馬鹿で、自分はそいつらを辞職に追い込んだ有能な経営者だという武勇伝をね。そんな戯言を聞かされても、そんな心無い経営者でも、私は彼を絶賛し続けなければいけないんだ。そして、そうしなければ、自分は生きていけないんだと気付いた時に、分かったんだよ」
「何が分かったの?」
「毎日毎日、面と向かって自分の能力と人格を否定され続け、反論も出来ず、ただ独裁者のご機嫌を取り続ける。彼の逆鱗に触れぬよう万歳三唱を繰り返していくことが、自分に出来る唯一の仕事なんだってことをさ。金という権力を手にしている者の前には、どんな小さな反抗すらも許されないのが世界ってやつなんだ」
自分の言葉が、自分の中に響いていた。
心の中に溜まった不満が、渦を巻きながら自分に襲い掛かってくる。
「そうなのね」
エマの声には、相変わらず小さな笑いが含まれていた。
本当に分かっているのか、それとも、全く聞いていないのか。
彼女が返してきた、いいかげんとも取れる返事の仕方に、私はとにかく不満だった。
本当に分かっているのか、それとも、全く聞いていないのか。
彼女が返してきた、いいかげんとも取れる返事の仕方に、私はとにかく不満だった。
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