薄っすら灯る古ぼけたテーブルライトとロウソクが、黄色のアンティークカウンターをオレンジ色に映している。
私は、緑色の布が貼られているカウンターチェアに腰かけて、天井ファンが作り出す柔らかな風を感じていた。
カウンターと5脚の椅子しか置いていない小さなBARで、その日の気分にあった酒を飲むことが、その時の私に出来る唯一の楽しみだった。
無口だが物腰の柔らかいマスターのケイと、カウンターの向こうから、私の話し相手になってくれるエマ。
彼らと過ごす夜の一時を、私はとても大切にしていたんだ。
もし、彼らとの時間が無かったら。
私は「私」という仮面の目から見えてくる限界に、視線と肩を落としたまま、一日を終わらせていただろうね。
私はね、独裁政治国家に身を置いていたんだよ。
簡単に言ってしまえば、ワンマン経営の小さな小さな小さな会社さ。
日常的に、罵声と皮肉が響き渡る社内。
その声の主に怯え、神経を擦り減らし、常に緊張を余儀なくされる毎日。
針の穴ほどもないミスすら許されず、声の主の武勇伝に笑顔で答え、自分の意見を押し殺し、そして声の主の失敗は、全てが私の責任になる。
それでも、反論は許されない。
反論などしようものなら、手の施しようがなくなってしまうからね。
人格を否定され、怒鳴りつけられ、無視をされて嫌みを言われ、その挙句に職を失うことになる。
日本は民主主義国家だと思って育ったが、それこそが間違いだったんだと気づいたのは、大人になり社会に出てからだった。
独裁者が小さな国家を乱立しているのが、この日本という国なんだ。
だから、その小国家には日本の憲法や刑法などは通用しないんだ。
独裁者は崇められ、神のごとく扱われ、日本国の権力さえも平伏している現状を見ているだけで吐き気がしていたんだ。